画像提供:大栗裕記念会ウェブページより
「巫女の詠えるうた」刊行に寄せて
生前の大栗裕(1918〜1982)は山歩きが趣味でした。
山中で嵐に襲われ、危うく遭難しかかったこともある入れ込みようで、山から戻ると撮影した写真を自分で現像して、登山の記録を『木曾の記』と題した手記にまとめていました。
「巫女の詠えるうた」は、青森県下北半島恐山のカルデラ湖を8つの霊峰が囲む奇観と、霊場に集まるイタコが死者の霊を呼び寄せる口寄せを描いています。西日本の優しい山並みや、日本アルプスの雄大な光景とはまったく違う、岩肌が露出した活火山の姿が、作曲者に強い印象を与えたのだと思います。
尼崎市吹奏楽団の委嘱で1979年7月1日に完成して、翌年3月26日、同団第15回定期演奏会(森ノ宮ピロティホール)で辻井清幸の指揮により初演されました。
練習番号[5]までのゴツゴツした音楽は、硫黄臭のたちこめる岩場、[6]〜[9]の優しいメロディーは、火口にできた風光明媚な湖を表しているのでしょう。[10]〜[11]のピッコロとクラリネットは、巫女が祖先の霊を呼び出す祝詞。トロンボーンのグリッサンドは、巫女が呪文を唱えながら、梓弓(巫女が祈祷に使った小さな弓)をビンビンと叩く様子かもしれません。そして[12]で、祖先の霊がおだやかに語りかけて、遺族の心を慰めます。
この楽譜の出版は、自筆譜を所蔵する大阪音楽大学付属図書館大栗文庫のご協力で実現しました。自筆譜の記載を忠実に再現することを原則としていますが、誤記と思われるいくつかの箇所に、出版社と相談の上で修正を加えています。
大栗裕が63歳で亡くなってから、今年でちょうど30年です。天王寺商業学校音楽部の吹奏楽(天商バンド)でアルトホルンを吹いたことが、大栗裕と音楽の出会いでした。「巫女の詠えるうた」は、作者の晩年の吹奏楽の代表作です。作品に込められた日本の風土や死生観への愛着と共感を感じ取っていただければと思います。
2012年11月10日 大栗裕記念会
大栗記念会のホームページはこちらから
タイトル:吹奏楽オリジナル譜『巫女の詠えるうた』
出版日:2012年11月18日
作曲者:大栗裕
グレード:3.5
演奏時間:約7分10
Tp最高音:五線外C
楽器編成
Piccolo
Flute 1/2
Oboe 1/2
Bassoon 1/2
E♭Clarinet
B♭Clarinet 1/2/3
Alto Clarinet
Bass Clarinet
Alto Saxophone
Tenor Saxophone
Baritone Saxophone
Trumpet 1/2/3
Horn 1/2/3/4
Trombone 1/2/3
Euphonium
Tuba
Contrabass
Timpani
Glockenspiel
Xylophone
4 Wood Blocks
2 Tom-toms
Maracas
2 Suspended Cymbals
Bongos
Tamtam
Congas
演奏:ウィンドオーケストラ フレア
指揮:清水一生